読了:「道草」夏目漱石著 | Photograph days  

読了:「道草」夏目漱石著

/Posted:2016.08.07

今年に入って夏目漱石の小説を何冊か読んだ。過去に読んだことがあるものもあれば、初めて読むものもある。道草は初めて読んだ。

僕が夏目漱石が好きな最大の理由は、彼の小説の舞台が僕の育った地域であることだ。主に文京区のあたりが舞台であり、牛込や神楽坂周辺もよく舞台になる。

夏目漱石以外にもその辺りを舞台にした小説家はいるだろうが、あまり読書家でない僕でさえ手に取るのが夏目漱石だった。

Natsume soseki

「道草」の主人公健三は駒込に住み、そこから追分のあたりまで歩くのを日課にしている(追分、現在の向丘に僕の実家がある)。ある日の散歩の際の出会いからストーリーが始まっていく。しかし、この小説は他の小説に比べれば大きな起伏はない。

この小説は漱石の人生そのものを描いている。幼い頃に養子に出されたものの、再び夏目家に復籍したという幼少期。英語教師として職を得たのちに、イギリスに留学し、帰国後駒込に居を構え帝国大学で教鞭をとるなど、健三の人物設定は見事なまでに漱石そのものなのだ。

漱石は自分の人生そのものを描かずにはいられなかったのだろう。展開が派手ではないながらも、その妻、兄姉、妻の父、そして養父母といった登場人物に対する健三の考え・心理は多く記述されている。漱石自身の周囲に対する思いを吐き出さずにはいられなかったのでは無いだろうか。

そして、それだけにとどまらないのも漱石らしさである。そのストーリーの中で、彼の生きた時代に対する思想や意思を登場人物に語らせ、読者を動かす力を強く感じる。小説発表当時は現代よりも強いインパクトを与えただろう。

この小説の最後で健三は語る。
「世の中に片付くものはほとんどありゃしない。一ぺん起こったことはいつまでも続くのさ。ただいろいろな形に変わるから他にも自分にも解らなくなるだけのことさ」
生きることにおける真理を見事に言い切っているよに思う。特にこの小説を読み進めた最後にこの言葉に出会うとこの言葉が真理であると納得せずにはおれないのである。

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夏目漱石の小説はすでに著作権が切れているので、青空文庫で無料で読むことができる。ただ、文庫版には解説や年表などがあり、作家のことを深く知ることができる。物理的にページをめくりながら、小説を読むという"読書体験"に数百円かけるのもまた楽しいものでは無いだろうか。

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